っ、なにその噂……!
というか、その話を知ってるってことは。ホスト?と申し分程度に聞いてみたら、彼はあっさり「そうだよ」って答えて、隣にいた女性の髪を撫でた。
どうりで甘ったるい雰囲気が、
仕事で疲れて帰ってくる彼と似てるわけだ。
「まあ俺、椿と同じ高校通ってんだけどね。
年齢詐称してるのノアさんも知ってるけど、一応、ナイショにしといて」
「は、あ……」
「ノアさん、『Bell』に来たの3月でしょ?
なのに凄いよね、売り上げ掻っ攫って今やナンバー2なんて。ウチのナンバーワンも相当すごいけど、ノアさんも異例らしいよ」
「……あの、わたし仕事の話、
あんまり聞かないようにしてるから」
詳しく知らないのは事実だ。
わざわざわたしに会いに来てくれる時間を、仕事の話で無駄にしたくない。ノアが愚痴でも聞いてほしいなら聞くけど、そんな素振りもないし。
「ああ、そうなんだ。ごめんね。
ハイこれ俺の名刺。なんかあったらいつでも連絡して?椿からプライベートのケー番聞いていいよ」
じゃあね、デート楽しんで。と。
わたしの手に名刺を乗せた彼は、ひらひらと椿に手を振って行ってしまった。……変わった人だな。
「あいつ余計なことばっか……
はなび、その名刺破り捨てといていいから」
「流石にそんな失礼なことはしないわよ」
独特の紫色の紙に、白字で『紫月』と書かれた名刺。
どうやらそれは源氏名らしく、本名は紫と書いて"しい"と読むんだと、椿が教えてくれた。
だから一番に、椿は「シイ」って彼を呼んだのか。
「あ、やべ。
あいつに、ノア先輩に俺がはなびといたこと言うなって口止めすんの忘れた」



