椿は女の子に対して軽いし、噂によれば昔っから手が早いけど。
わたしはこうやって長い付き合いを続けていも当然何かされたことはないし、椿にもその気はないと思う。
もちろん、その気がなくたって、男子からすればわたしのことなんかどうにも出来ちゃうんだろうけど。
椿から、そんな風に、下心みたいなものは一度も感じたことがなくて。
「……鈍感すぎて腹立つ」
「……ん?」
「なんでもねえよ。
ほら、すみれのお土産買うの付き合って。あと俺の服も選んでくれるんだろ?」
「あ、うん。混んでるし早く出なきゃね」
そう言ってバッグを肩にかけている間に、彼は颯爽とお会計に行ってしまい。
あわててそれを追いかけたけど、「出さなくていい」と結局奢られてしまった。……自分の分くらい出すのに。
「ランチ美味かった?」
「……え?あ、うん。美味しかったわよ」
「……その笑顔見てたら、金出してほしいなんて思わねえから。
ほら、今日は俺とデートしてんだから、笑顔でいて」
「……椿」
椿に口で勝てる気がしない。納得いかねえなら手繋いでデートしよって言われたけど、それは丁寧にお断りした。
デートだけでもギリギリなのに、ノアに悪いと思うことはしたくない。
「じゃあとりあえず、すみれのお土産な」
『花舞ゆ』のメンバーが行くのは地元の近くにある、手前のショッピングモールだけど。
椿の好きなブランドショップが向こうには入ってなくてこっちのモールにあるから、彼はよくここへ来るらしい。だと思った。やけに詳しいもの。



