「あ、美味しそう。
ねえ、椿のトマトパスタちょっと分けて」
一瞬、脳裏で何かがぱっと発色したような気がしたけれど。
わざとらしく、運ばれてきたパスタへと話題をそらした。あからさますぎるけれど、椿はそれにあっさりと乗ってくれる。
「ん、いーよ。はなびのパスタ何だっけ」
「レモンクリーム。
いまね、わたしのマイブームがレモンなの」
「なんか……昔も似たようなこと言ってたな」
「突然オレンジがブームなんて言い出して、バレンタインのチョコはオレンジピールを刻んで入れてみたり、オレンジの入ったホットショコラ買ってきたりね。
……よく考えたら、バレンタインチョコなんて食べるのわたしじゃないのに」
「ふは。ほんとだよ。
このモールの中、たしかレモネードのショップがあったはずだけど。あとで行く?」
レモンがブームだと言い出したからか、そう提案してくれる椿。
最近すこしずつ暑くなってきたから、レモネードは飲みたい。たぶんレモンがブームじゃなくても飲みたい。頷けば、あとで寄ろうと言ってくれた。
「このあとショッピングするのよね?
椿、何か見たいものでもあったりする?」
「んー、特に……あ。
最近構ってやれてねえから、すみれのご機嫌取りしなきゃいけねえんだよな」
「ああ……
そういえば妹いたわよね。いくつになったの?」
「3歳。写真見る?」
そっか、彼の妹が生まれた時はわたしはこっちにいたけど、会わない間にもうそんなに大きくなったのか。
昔から写真はたくさん見せてもらってたけど、2年離れてたんだから、当然彼女も成長しているわけで。
なに買って帰ったら機嫌なおると思う?と尋ねてくる椿は、すっかりお兄ちゃんだ。
直接会ったことはないけど、椿の溺愛っぷりは見て取れる。



