「……ありがとう、椿」
「ん?なにが?」
「なにが、って……ぜんぶ。
映画代もドリンク代も出してくれたし、こうやってランチまで予約してくれて。慣れてるんだろうけど、やっぱりうれしいって思って」
注文を済ませて待つ間に、彼にしっかりお礼を言っておく。
あれだけ嫌がっておいてなんだけど、こんなに丁寧にエスコートしてもらえるとは思ってなかった。
「ああ、うん。
……でも別に、慣れてるわけじゃないけど」
「それは冗談でしょ」
「ほんとだって。
デートプランも真剣に考えて送ったから遅くなったし、まあ無難な感じになったけど。あんな風に言い切ったのに、はなびを退屈させたくねえじゃん」
……律儀、だ。
わたしは椿と過ごす時間を退屈だなんて思ったことは、一度もない。なのに、そんなわたしを退屈させないように、と言ってくれる。
すごく律儀で、本当はすごく優しいって知ってる。
だから、今日だって。本気でこのデートを嫌がったわけじゃなかった、と思う。自分のことなのに曖昧で申し訳ないけど。
「まあ、結局。
……俺が、いちばん楽しんでるけど」
「……ほんとに?
実は椿の方が退屈だったりしない?」
「まさか。
なんで俺がはなびと過ごして退屈だって思うんだよ。楽しいよ。デートできて」
「……、うん。わたし、も」
楽しいよ、って。
小さく告げたら椿は一瞬きょとんとする。それから、綺麗なブラウンの瞳を細めて優しく笑ってくれた。……椿って、こんな風に笑う人だった?



