「わたしの中で天秤にかけられたのは、ノアと『花舞ゆ』なの。
その結果ノアが勝ったわけだけど、椿で同じことをするなら『花舞ゆ』とわたしを天秤にかけることになる」
「わかってるよ」
「椿が『花舞ゆ』とわたしを天秤にかけたところで、わたしが勝つとは到底思えない。
……悪いことは言わないから、余計なことは考えないで」
ただの仲間ひとりのために、彼があの居場所を捨てられるとは思わない。
度胸がないとかそういうことを言ってるんじゃなくて、それが本来あるべきはずのものだから。仲間ひとりよりも、他の仲間全員を優先するのは当たり前のこと。
わたしが天秤にかけたのが、どちらも仲間としての絆だったら、わたしだって同じような行動をとる。
唯一違ったのは、かけたものが『友情』に対して『恋愛』だったってことだ。
「……、降りるよ」
椿はずっと、何か言いたげな顔をしてたけど。
結局何も言わないままで。電車を降りると同時に、その話はどちらともなく終了した。
「……予想してたけどカップルと女子ばっか」
「おかげで視線が痛いわよ」
目的は決まっているし、駅からモール内の映画館に直行する。
映画にはすこし早いけどどこか行くほどの時間もない。チケットとドリンクだけを買ってようやく入場できる時間になったけど、圧倒的なカップルと女子率。
そして女子からわたしに向けられる「あの子彼女?」という視線。
残念ながらわたしは椿の彼女じゃない。……なら何なの?って言われそうだけど。
「椿髪色変えたら?ほんとに目立つ」
「変えたらまたデートしてくれんの?」
「変えなくていいから誘わないで」



