髪が染まるまでの間、メッセージを通して暇そうにしている桃の相手をする。
ほんのわずかだけれどわたしが帰る頃には閉店時間を過ぎてしまうため、ガラス扉にかかったプレートは和馬くんの手で『closed』に変更された。
わたしがまだいるから、ドアの内側で下ろされるはずのシェードは上に巻かれたまま。
それでも閉店時間は間もないから、誰も入ってこないはずなのだけれど。
からんころんと軽やかな音が鳴って、扉が開く。
入ってきた女性を見て、お互いに「あ」と反応した。
「トウカさん、」
何を隠そう、『BLACK ROOM』のトップである彼女。
今日も色気たっぷりな彼女は「こんにちは、はなびちゃん」と微笑む。その腕には、赤ちゃんが抱かれていた。
「あれ、はなびちゃんってリン──」
「カズ、ちょっと静かにしててくれるかしら?」
ふわり。微笑みつつも、彼女は和馬くんを牽制する。
そして「はなびちゃんってここのお客様だったのね」と口にしたトウカさんは、受付のソファに腰を下ろした。
「あ、はい……
一時期地元にいなかったので、その前と、あと戻ってきてからお世話になってます」
「ふふ、そっか。
うちは親の時から和璃さんにお願いしてるから」
昔から知り合いなの、と。
微笑んだ彼女の腕の中にいる赤ちゃん。お幾つですか?と小さく問えば、まだ1歳らしい。……トウカさんって若いけど一体いくつなんだろう。
「莉望と一緒にいんの珍しいじゃん。
今日は実家に呼び出しくらった?」
「……、
トウカさんの子どもじゃないんですか?」
和馬くんの問い掛けの後に。
口を挟むのは悪いと思いつつも尋ねれば、彼女はほんのすこし困ったように眉尻を下げて、それから慈しむような視線を落としたあと。



