あの時と同じ。つまり、それは。

俺と同じ──ただひとつの、特別、な。



「でも俺、椿のこともすげー好きだし。

ただ単に……いま言っときたかっただけ」



「……杏子と付き合うことになった?」



「……よくわかったな」



そりゃあ付き合い長いし、と。

月明かりに照らされながら、彼女はくすりと笑う。そして「ふたりなら上手くいくわよ」と、何の根拠もなくただ一言、そう言い放って。



「杏子のこと……よろしくね」



わたしの大事なともだちだから、と。

はなびのその言葉に芹が頷けば、また部屋には沈黙が舞い戻る。それを引き裂いたのははなびの方で、「あのね」とやわらかい声が耳を撫でた。




「今日、マヤに聞きたいことがあったのよ」



「あー、一緒にいたっつってたもんな」



「この間、マヤにわたしの両親が椿と付き合ってることに怒ってるって言われたの。

だけど実際に連絡してみたら、まったく怒ってなくて。……どうしてそんな嘘をついたのか、知りたかったのよ」



花火を見に行ったあの日。

たまり場の2階で、確かに八王子はそう言ってた。はなびの両親が、怒っていると。



「1日付き合ったらおしえてくれる、って言うから一緒にいたのに。

結局、「まだ秘密」ってはぐらかされて終わっちゃうし」



「まあ、お前と椿からすればすげー迷惑だろうけど。

あいつにも、色々思うところあるんじゃねーの」



「そうね。……芹、お酒もうやめたら?

明日二日酔いになっても知らないわよ」