ひらり。手を振った彼女に軽く手を上げて返すと、颯爽とヒールを鳴らして店を出て行った。
それを見送ってからぐしゃぐしゃにされた割には大して乱れていない髪を軽く直して、スマホに触れる。
一仕事終えた気分、だし。
パーッとしたいし。
『いま暇してる?』と連絡を入れればすぐにつく既読。
……マジで俺のことどんだけ好きなんだよ、芹。
『暇じゃねーけど、どーしたよ?』
暇じゃないのか。
でも俺の用事を一応聞いてくれる、と。……んじゃあ、とりあえず飯行かね?ってそれに返事しようとした時、頭上から降ってくる「こんにちは」と淡々とした声。
「あ、」
顔を上げれば、綺麗な黒髪の女の子。
この子、はなびの……あのピンクのツインテールが特徴的な彼女の、双子の姉。
「はなびと付き合ってるんですよね」
「うん。そう、だけど?」
「さっきのお綺麗な方は?」
……やべえ。見られてた。
元カノ、と言えば誤解が広がるだろうし、だからって変に濁しても怪しまれる。
「色々ケリつけたくて」と言えば、彼女はすこし考えてから、納得してくれたようだった。
「はなびに黙っといてほしいんだけど」と少しばかり怪しさを匂わせる発言も、色々と汲んでくれたようで頷いてくれる。うん、すごくいい子だ。
「あ、そうだ。
えーっと……芹のこと、知ってるんだっけ?」
彼女の動きに合わせて、さらりと黒髪が流れる。
それを見つめてから小さく笑って。「いまから芹に声かけるから飯行かない?」と、彼女を誘った。



