「あたしが、好きな男に振られたからって泣いて縋るようなプライドの低い真似すると思う?」
「ううん、全然」
「でしょ。少なくとも、
あんたの前では先輩でいてあげるから」
そう言って笑ってるけど、きっと。
家に帰ったらひとりで泣くんだろうな、と思う。
それがわかるぐらいには近い距離にいて、一度も「好き」の言葉に返事をしなかった狡い俺を、それでもいいとそばにいてくれた人。
言わないけど、そういうところは好きだった。
恋愛感情は、一度も抱かなかったけど。
好きな相手と想いは通じ合わないのに身体は、なんて。
苦しくなかったはずが、ないから。
「あたしが数年かけて面倒見てあげたんだから。
……ちゃんと幸せになりなよ」
「……うん」
「よし、じゃあこれが最後」
わしゃわしゃと髪を撫でられて。
乱れるのはわかってたけど、されるがままになっている俺に、彼女が微笑む。
「……やっぱあたし、裸眼の方が好きだわ」
手が離れる。──これで、お別れだと。
理解しているから一抹の寂しさはあったけれど、それを口に出すことはしない。彼女の強がりを、俺が崩すわけにはいかないから。
「……じゃあね」



