「……、よかった」
駅自体が広いし待ち合わせ場所にも人は多いけど、あのコバルトブルーの髪は絶対に目立つ。
ほっと胸をなでおろしていたら「安心してんじゃねえよ〜」と聞きなれないゆるい声が耳に届いて、顔を上げた。
「椿。……おはよう」
「おはよ。すぐそこまで来てたのに、お前があの人と手繋いで来たの気づいて咄嗟に引き返したわ。
お前ねえ……せめて先に一緒に来ること連絡しろ」
「ごめん、タイミングなくて……」
……ってあれ。
どうしてわたしが悪いみたいになってるんだろう。そもそも無茶ぶりで誘ってきたのは椿の方なのに。
向かいの噴水の前にいるお姉さんはさっきまでわたしが別の男といたのを、おそらく最後のキスまで見てたんだろう。
颯爽と現れた椿を見て、まるでわたしが悪い女みたいな目で見てるじゃない。
「まあいいや。先輩どっか出掛けたの?」
「あ、うん。なんか、出掛けるらしいわよ」
「ふーん?鉢合わせたら面倒だし、電車1本見逃すか。
……ああそうだ、今のうちに、」
デニムジーンズのポケットからスマホを取り出して、ぱぱっと操作した彼は。
時間的にこのあたりかな、と公開されている映画の一覧を見せてくれる。
「どれがいい?
観たいやつあって時間合わねえなら、ショッピングで調整するけど」
「んー……」
並んでいるのは洋画のアクションに邦画の恋愛もの、アニメ、ドラマの劇場版に、ホラーなどなど。わたしは正直どれでもいいけど。
これかな、と恋愛ものを指差せば、椿がじっとわたしを見つめた。



