「……我慢するから、キスだけさせて」
それでも、まだ触れないって言い出したのは俺だし。
どっちみちここ実家だし。親いるし。本当はすごく欲しいけど、まだ我慢。ぎゅっとはなびの手を握って口づけて。
髪を乾かしてから、彼女を抱きしめたままベッドに横になると照明を絞る。
仄明るいオレンジ色の下で、はなびを抱き寄せた。
「まだ21時半だって。……寝れる?」
「俺いつも寝んの遅いし絶対無理」
「ふふっ、ならどうして電気消しちゃったのよ」
はなびから甘いシャンプーの香りがする。
いつもと違うそれは俺の家のもので、同じものを使ってるはずなのに、すみれとはまた違う大人びた匂いがする。
「寝落ちるまで、ゆっくり話そうか」
身体を横にして、はなびと向き合えば。
真っ暗にしていないから暗さに目が慣れるのが早くて、思いの外はっきりはなびの表情が見える。
「はなびさ、さっき……
俺じゃなきゃ嫌って、言ってくれてたじゃん」
「……うん」
「はなびが先輩と付き合う前から、はなびのこと好きな俺からすれば……
誰でもいい、の段階を、俺はちゃんと分かってたんだよ。俺じゃない誰かでも、慰めてくれる相手がただ欲しかっただけってこと」
現に、はなびが先輩とデートした翌日。
誰もはなびのマンションを知らなかったから修学旅行帰りだった俺が彼女のところに足を運んだだけで、もし先に行ったのが俺じゃなかったら、はなびは別の誰かに手を伸ばしていたと思う。
あの時俺はキスなんかで、はなびの傷を埋めてやりたくなかったから。
何もしなかったけど、別の誰かだったら。たとえば染だったら、彼女のそのわがままを呑んで、俺とは違う方法で彼女を慰めたかもしれない。



