付き合うことになった日。
はなびから、すべてを聞いたあの日。はなびはそう言ってた。ずっと前から、もうすでに弱さを見せ合える関係には敵わないと、知っていたから。
「すごく正直なことを言うと。
……椿じゃなくても、よかったんです」
はなびの凄いところは、たとえ相手が誰だろうと、相手にとって否定的なことであろうと、それを口にするのをためらわないところだ。
いつだって、まっすぐで。
「わたしのことをずっと好きでいてくれて、大事にしてくれて。
それだけ大切に思ってくれるなら、たとえ相手は椿じゃなくても良かった」
だけど、流されたわけじゃない。
俺に流されて付き合おうと考えたわけじゃない。──本気で、向き合おうとしてくれたこと、ちゃんとわかってるから。
「だけど今は、それが椿じゃなきゃ嫌です」
……どうしてか。
たった今、ようやく。はなびの気持ちが、ちゃんと俺に向いてくれたような気がした。
付き合って結構経つのに。
好きだとも言ってくれていたのに。
それでも、なぜか、今だった。
バラバラだった感情が、重なった気がした。
「……ふふ。
扉の向こうで椿悶えてるんじゃない?」
「悶えてねえよ」
母さんの楽しげな声は、浴室に足を踏み入れれば聞こえなくなる。
浮かれるより、今はただただ海面が凪いでる時のように穏やかな気分だ。しみじみ、好きになってくれたことを実感していると言ったほうが早いか。
「……『椿じゃなきゃ嫌』、ね」
ようやく、はなびじゃないと嫌だと言っていた俺を、俺じゃなきゃ嫌だと言ってくれるようになった。
十分すぎる。十分すぎるくらい、幸せだから。



