「……来週も、体育の授業あるんだけど」
「ああ、それはごめんね?
でも彼氏持ちだってみんな知ってるなら大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃないのはわたしの精神状態」
……まったく、もう。
この間つけられてたのだって、普段なら見えない場所だったけど更衣室で着替えていた時に、めざとく桃に見つかってしまった。
しかも見つかっただけじゃ済まず、教室に帰ってからも大きい声で質問攻めにしてくるから、みんな言わないだけで聞いてたと思う。
……元をただせば悪いのはノアだけど。
「あ、そうだ。待ち合わせ駅前なんでしょ?
俺も朝から出かけることにしたし、駅まで一緒に行こ」
「え、出掛けるの?」
とっさに聞き返すと、不思議そうな顔で「だめだった?」と首をかしげる彼。
何もだめじゃないから「ううん」って返事するけど、内心焦りまくりのわたし。
駅まで一緒に行くのは、いいん、だけど。
もし万が一、椿と彼が鉢合わせたら、まったく言い訳できない。
「友だち来るまで一緒に待っててあげるよ」なんて言われてしまったら、どうしたってバレてしまうわけで。
手をつないで外に出るなんていうひさしぶりの行動にも、全然喜ぶことができないまま。
「じゃあ、楽しんでおいで。
あんまり遊び歩いてちゃだめだよ、心配だから」
「う、うん。
……ありがとう。ノアも気をつけて」
「ん。ならまた来週ね」
駅につくと、彼はわたしの額にキスを落として、あっさり改札の中へと入っていった。
……どうやら杞憂だったらしい。



