「ん、じゃあ行けそう?」



「うん。大丈夫」



ふたりで家を出て、鍵をかける。

「貸して」と泊まりの準備が入ったバッグを椿が持ってくれて、お礼を言えばさらりと髪を撫でてくれた。



「昨日から、はなびが泊まりに来るって知ってすみれのテンションが高いんだよ〜。

一緒にお風呂入る!とか言いだして困るわ」



「……お風呂くらい一緒に入るけど」



「なんでだよ俺とも入ってねえのに」



……いや、それこそ「なんで」なんだけど。

椿とお風呂とか精神的に恥ずかしくてわたしが無理だ。考えるだけで心臓が痛い。




「先輩とは?」



「……え?」



「先輩とは一緒に入ったことねえの?」



……ノアと?

一緒にお風呂入ったことなんてあったっけ、と記憶を辿る。彼が夜に来るときはわたしが大抵お風呂を済ませてしまっているし、朝は別々だったし。



「ない……と思う。

いや、あったかもしれないけど、わたしの記憶にはない気がする……」



「んじゃあ、

そのハジメテは俺がもらわなきゃな」



いや、もらわなくていいんですけど。むしろもらわないでほしいです椿さん。

なんて、言い返せるのは心の中だけで。──じわりと赤くなる頰が癪だ。