「水族館が、いい」
意識をそらしたくてそう答えてみたけど、背筋をぞくりとしたものが這って、何の気休めにもならない。
握られているわけじゃないから手を引けばそれで済むのに、それも嫌なんて、どうかしてる。
「いいよ。じゃあ水族館にしようか」
「ノア……なんか、甘い」
「ふは。……はなび、顔真っ赤だよ」
「もう、ばか」
電気を消しているから見えているはずなんてないのに言い当てられて、余計に顔が熱い。
「もう寝るから」って素っ気なく言っても、わたしの考えなんてノアはやっぱりお見通しだから。
「おやすみ」
穏やかに言われて、詰まりそうになりながらもなんとか声にした「おやすみなさい」を返す。
今度こそ眠ろうと考え事を放棄すれば、途端にまぶたが重くなってきた。
髪を撫でてくれていた手がそっと頰まで下りてきて、まだ熱がおさまりきっていない頰にそっと触れる。
それが冷たくて心地よくて、不思議と安心した。
薄らいでいく意識を手放して、半分夢の中。
ふわふわと揺蕩うような現実の中で、彼がなんだか現実味のない言葉をくれたような気がしたけれど。
「……、ん……?」
──朝目が覚めれば、夢うつつな出来事は何も覚えていない。
それどころか頭を占めているのは椿のことで、小さくため息をついて身体を起こす。ノアの腕からそっと抜け出して、身支度をはじめた。
待ち合わせは11時に、駅前。
どこ行くのって聞いたらショッピングモールにある映画館で映画を見て、そのあとランチで、ショッピング。ちなみに、昨日ノアに2択を出されて水族館がいいと言った理由のひとつはそれだ。



