肌を掠める吐息が熱っぽいのは、夏のせいだろうか。

たどる指先に、大げさに震えてしまう。どうにかなってしまいそう、なんて馬鹿げたことを考えながら、力の入らない指で彼の服を握る。



「はっ……、すげえ煽り上手」



いつだったか、ノアにも言われた言葉をささやかれた。

かと思うと、甘い吐息が耳を撫でて、くちびるからは彼よりも熱の籠った吐息がこぼれ落ちる。



それすらも奪うように、口づけられて。

そのまま思考が熱で溶けてしまいそうに、なったとき。



「ん……、おしまいに、しようか」



ふっと離れた椿は、そう静かに告げる。

一瞬言われた意味がわからなくてきょとんとしたわたしは、すこし冷静になった頭でもう一度彼の言葉を思い出す。



……おしまい?

いまおしまいにしようって言った?




「え、ここまでしておいて……?」



「まだ何もしてねえよ」



いや、確かにそうなんだけど。

ガレージから出た後、付き合っていることを椿が告げてから、みんなで後片付けして。送ると言ってくれた椿に、マンションまで送ってもらい。



そのまま別れるのも名残惜しくなって部屋に導き、リビングでふたりきり。

キスから今の展開に進んだものの、胸元に軽い口づけをされた拍子に浴衣の合わせが少し緩んでしまったくらいで、他には何もされてない。



されてないん……だけど。



「続き……期待してた?」



甘い声で色っぽい雰囲気で、なのに男らしい顔を見せられたら、わたしだって戸惑うわけで。

囁かれた言葉で自分だけが流される気でいたことに気づいて、一気に恥ずかしくなる。