吐き捨てる彼女に対し、「ひどいなぁ」と思ってもなさそうな顔の八王子。

どうすることもせずにジッとその様子を見ていれば、「ねえ」と唐突に視線が俺へと向けられる。



「君なら、女の子選び放題でしょ?

別にはなびにこだわらなくてもいいんだし、お姫様俺にくれない?」



未だに笑みは貼り付けたまま。

だけどまったく笑っていない目。明らかに俺に向けられているのは"敵意"だ。



「そのセリフ、そっくりそのまま返すわ」



「俺はね、はなびじゃなきゃだめなんだよ。

染がどうして、はなびのことを好きなのに今まで何も行動を起こさなかったか知ってる?」



「それは、」



あいつは、はなびの幸せを一番に願ってて。

そのためなら自分の感情を優先しようとは、思っていない。ただそれだけのはずだ。




「俺が幼い頃からずっと、はなびのことを好きだって知ってたから。

はなび、染に告白されたでしょ?」



「………」



「あれは別に染が突然心変わりしたんじゃなくて、近々合併するってところまで話が纏まってたから、俺とはなびが再会する前に言っておこうっていう染の優しさ。

……あいつの『はなびが幸せならそれでいい』っていう考え方は、同時に俺への遠慮なんだよ」



ひどい、わけではないと思う。

別に染のその気持ちを利用しているわけではないし、染が理由あってそうやって遠慮しているなら、何も間違ってはいない。でも。



「染に悪いと思わねえの? ソレ」



「思わないよ。

逆に君は、この考え方が染に悪いと思うの?」



「だって、」