「ただいま」



「ふふ、おかえりなさい」



玄関で。

そのまま学校帰りにマンションまで来てくれた椿を招き入れてリビングに通せば、「すみれは?」と首をかしげる。



「お昼寝の時間に、眠くなっちゃったみたいで。

いまはベッドでぐっすり寝てるの」



適当に座ってて、と。ソファにすすめてキッチンに入ろうとしたら、ぎゅうっと抱きしめられた。

どうしたの?と尋ねれば、「充電」と一言。……なにそれかわいい。



「……おつかれさま。補習疲れた?」



ぽんぽんと頭を撫でてあげたら、「疲れた」ってつぶやく椿。

ブラウンの瞳と視線が絡めばどちらともなくくちびるを重ね合わせて、吐き出した吐息が甘さと熱っぽさを孕む。




「まじめに終わらせたらはやく帰れるって言われたから、まじめにやってたのに。

……シイが邪魔してきて面倒だった」



「ふふ、仲良しね」



「……でも、帰り道にさ。

はなびと結婚したらこうやってはなびの待ってる家に帰ってこれんのかなって思ったら、ちょっとそれいいなあってなった」



「………」



だめだ。椿がちょっと嬉しそうな顔で笑うから、わたしが変にドキドキする。

どう切り出せばいいのか迷っているわたしの表情をいつもみたいに困っていると受け取ったらしい椿は。



「……好きだよはなび」



いつものように甘い囁きをくれる。

それに「うん」と返すだけの会話は、おしまいだ。