ソファから立ち上がって、ルームフォンを手に取る。

それから「はい」と出れば、返ってくるのは『俺』とたった一言。それだけで誰かはすぐに気づいたけれど、予想していなかった相手なだけに、一瞬驚く。



「あ、えっと、どうぞ」



そう言って階下のオートロックを解除して、数分。

再び鳴ったインターフォンに、すみれちゃんがお利口に絵を描いているのを一瞥してから玄関に向かった。



部屋に通せば彼は「お邪魔します」と上がった後。

リビングにいる彼女を見て「すみれ?」と首を傾げた彼は、続けるようにして「椿は?」と問う。



「椿は学校の補習。

……すみれちゃんの面倒を見る人がいないからって、今日だけうちに一緒にいるの」



「ああ、そういうこと」



納得したかと思えば、すみれちゃんがスケッチブックに向けていた真剣な瞳を上げる。

ぱっと嬉しそうな表情で、「たまちゃん!」と彼の名前を呼んだ。




「ひさしぶり。

……ちょっと見ない間に大きくなったね」



「うんっ、おっきくなったんだよー」



嬉しそうなすみれちゃんの髪を撫でてあげる珠紀。

別にいいんだけどどうしてわたしのマンションを知ってるのかと問えば、「芹に教えてもらった」らしい。



そして珠紀がわざわざわたしを尋ねてきた理由はなんなんだ、と。

ジッと彼を見据えれば、珠紀は先に「すみれ」と彼女を呼んで。



「いまから真剣な話するから。

……ここでお利口に絵描いててくれる?」



途中で邪魔されないよう、彼女にそう告げる。

それに「はぁい」とすみれちゃんが返事したのを見てから、リビングのすぐそばにあるダイニングテーブルにそっちで話をしようと彼を促す。



向かい合って席に着いたところで、ようやく珠紀が口を開いた。