そういう訳で、椿はいま補習に行っている。

さすがに椿がいないのに、わたしが椿の家に居座るわけにはいかないし。



わたしの家で、今日はすみれちゃんと過ごす。

本当はわたしのマンションまで椿が彼女を送ってくれる予定だったのだけれど、椿の家から駅とわたしのマンションは全くの反対方向。



遠回りしてもらうのも悪いから、と。

わたしがすみれちゃんを迎えに行ったタイミングで、椿は補習に行った。



照りつける太陽があつい。

すみれちゃんと手を繋いで彼女に合わせてゆっくり歩き、たどり着いたマンション。椿の家から10分かからない距離だけど、歩いてるだけで暑い。



「ふたりで一緒に何しようか、すみれちゃん」



「えっとねぇ、」



オートロックを解除して、エレベーターに乗る。

『3』のボタンを押して扉を閉め、密室なその空間で響く明るい「おえかき!」の声に、頰がゆるんだ。




「あと、おみせやさんごっこするのー」



「ふふ、いっぱい遊ぼうね」



椿から渡されたすみれちゃんのバッグには、彼女の普段の遊び道具が詰め込まれていて。

わたしの家でわたしと遊ぶ、というのが楽しみなすみれちゃんが、張り切って朝からたくさん詰めたらしい。



そんなの、

可愛すぎていっぱい遊んであげるしかない。



ひとまず家に入るとすみれちゃんに手を洗ってもらってから、昨日買っておいたパックのジュースにストローをさして手渡す。

「ある程度放っといても大丈夫だろうけど」って椿は言ってたけど、任せてもらっているんだから当然気は遣うわけで。



迎えに行く前につけたエアコンで部屋が涼しいから、彼女が風邪をひかないように「寒かったら言ってね」と声をかける。

そして彼女がバッグの中身を取り出すのを、じっと見ていたら。



ピンポーン、と、インターフォンに呼ばれた。