『花舞ゆ』が正か悪か訊かれたら、残念ながら"正"ではない。

だけど昔から続くあの居場所を、"悪"だと思ったこともない。俺の居場所で、大事な仲間のいる場所。……だからこそ、はなびにもどってきてほしい。



先輩と別れろ、なんて言わないから。

きっとこの先何度だって俺は敵わないあの人に嫉妬するんだろうけど、それでも構わないから、今はただあの場所にもどってきてくれればいい。



本当に、誰もはなびが"裏切った"なんて思ってない。

思ってるなら、あんなに平然とはなびの名前が出てくるわけがない。



関わらないと宣言されてから、もう2年も経ってるのに。

今も何の違和感もなくはなびの名前が出るのは、未だに大事に思われているからだ。



「……デート、どうすっかな」



風呂を済ませて部屋にもどれば、すやすやとベッドで眠る妹。

起こさないように窓を開けてベランダに出れば、雨が降ったとは思えないほどに空は澄んでいた。



……俺の心ん中もあれぐらい晴れたら良いんだけど。

それは無理そうだな、と、嫌悪感丸出しだったはなびを思い出して、苦笑が漏れる。




『らしくないこと言ってもいい?』



『ん?らしくないことって?』



『わたし……たぶん、おひめさまになりたいの。

誰でもなく、好きな人の、たったひとりの』



『、』



『ね?わたしらしくないでしょ』



『いや、俺なら……、

その考え方は、いいと思うけど』



"俺なら、おひめさまにしてあげられる"。

あの日言えなかったその言葉は、きっと。……何年経とうが、彼女には、伝わらない。