シャワーを浴びて部屋に引きこもった俺のところに、すみれが「おにーちゃん」と寄ってくることはなかった。
どうやらこのタイミングで運良くすみれは友達の家に誘われたらしく、昼食をふたりで済ませてから、母さんはすみれを送るついでに出掛けて行った。
俺の分もあるらしいけど、いま食べる気分じゃない。
ベッドに寝転んでスマホに触れたら今までにないくらい不在着信の履歴にはなびの名前が並んでいて、逆に笑ってしまった。
……心配しなくても大丈夫だよ。
別れるような話はしてないし、俺がちょっと心の整理をしたいだけで。
「……メンタルよわ、」
そういえば、前にもはなびとデートした後に、こうやって考え込んだ記憶がある。
あのときは熱まで出して、結局次の日には回復してたけど、マジで俺のメンタルは弱い。
「………」
スマホが震えたかと思うと、今度届くのはシイからのメッセージ。
染やあの場にいなかった珠紀まで心配したように送ってきてくれるから、息が詰まる。
染なんて昨日、俺に堂々とはなびを口説きます宣言してたじゃん。
俺がいないこのタイミングを狙って口説くとかすればいいのに。優先してくれんのは俺なのか。
「はぁー……」
また震えたスマホが、はなびの名前で着信を知らせる。
仕方なく「なに?」と出れば、電話の向こうではなびが鼻を啜ったのがわかった。……泣いてる?
『つばき、』
「……ん」
『わたしが何言ったって、伝わらないかもしれないけど……っ。
わ、たし……誰でもいいわけじゃ、ないから、』
見えない透明な糸を手繰り寄せるように。
慎重に言葉を紡ぐのは、どうにもはなびらしくなかった。



