ぽたぽたと、地面に落ちていく雫。
快晴だったにも関わらず狙ったように降った雨。気まぐれな雲が俺らの頭上で雨を降り注いで、はなびには風邪をひくからとたまり場に引き返させた。
褒められたことじゃないけど、これでも女の子の扱いには慣れてる方で。
それは大人な意味で女の子たちを楽しませる方法も、言葉巧みに相手の感情を崩すのも、どちらもそれなりに得意な方。
だから、女の子を傷つけたことは一度もなかった。
俺と相手の女の子の感情に差が生じて、「最低」って平手打ちされたことは何回かあるけど。
それでも自分から傷つけたことは、一度もなかったから。
はなびを自分の言葉で傷つけた時はただ純粋に驚いたし、不甲斐なかった。
はなびを好きになってから知ったことは多い。
上手く守れなくて傷つけてしまうのは、大事だからだってこともはなびから知ったことだ。
「おにーちゃんびしょびしょ……!」
家の扉を開ければ「ただいま」も言っていないのに駆け寄ってきた妹は、そう言ってリビングに引き返す。
どうやら母さんを呼んできたらしく、呼ばれて出てきた母さんは俺を見て困ったような顔をした。
「タオル持ってくるから、待ってなさい」
「、」
雨で濡れたせいで顔に張り付く髪が気持ち悪い。
すっかり見慣れた落ち着いた色。長年変えなかった髪色を変えたその日に。染が告白して、俺も向き合おうって、決めて。──やっと、だったのに。
「お風呂のお湯いま溜めてるけど。
冷えちゃうから、先にシャワー浴びなさいね」
タオルを頭の上から被せられて。
わしゃわしゃと拭かれるけど、されるがままにジッとしていた。俺と誰よりも長く一緒に過ごしてきた人だ。どうせ俺のことなんか一番知ってる。
「……すみれの面倒はほかに頼むから。
今日は昼からゆっくり休んでなさい、椿」
お見通しだ、全部。



