「……椿?」
はなびが戻ってきたのは、それから1時間ほど経ってからだった。
この暑い中どこに行っていたのかは知らないけど、それを今更詮索する気にもなれない。ため息を呑み込んで、「はなび」と冷静に名前を呼ぶ。
知らなかった。
案外振り切れるところまで振り切れたら、俺って冷静になれるタイプだったらしい。
"姉さん"直属の3人のうち1人が欠けたってこの話し合いには問題はないようで。
突然来たシイともうひとり、ミル、と呼ばれていた男と、俺らで淡々と話は進んだ。キリがいいところまで話したし、夏休み中には新たに形が変わる。
「ごめん、母さんが午後から出掛けることになったんだと。
今日は父さんも仕事でいねえし、すみれの面倒見るから俺帰るわ。はなびどうする?」
「え、」
「誰かほかのヤツに送ってもらう?」
めずらしく人口密度の高い2階。
話も纏まったからと、ついさっき珠紀は彼女を送ってくると言って出ていった。
みやちゃんは元々はなびと会うことが目的だったため、珠紀を通して連絡先をもらってからあとで直接連絡を取るらしい。
バタバタしてしまったせいで彼女も困惑気味だっただろうけど、とりあえず事情のわかる子でよかったと思う。
「え、と……」
「じゃあ、その役目は俺に任せてもらっても?」
……言うと思ったよ。
ため息を強引に飲み込んで、「じゃあよろしく」と目も合わせずに吐き捨てる。
たぶん俺が勝手に敵意を抱いてることは気づいてるだろうけど、馴れ合う関係になんてなれないだろうからこれでいい。
「じゃあまた」って一言でたまり場を後にして、ガレージを出て数歩歩いたところで、我慢したため息がこぼれ落ちる。
「……、知ってん、だろ」



