だからってどうすることもできないまま、ガレージから出ていくふたりを見送ることしかできない。
シン……と一瞬静まったその瞬間に落とされた重いため息は、珠紀のもので。全員がそれに気づいたと同時に、ピクッと肩を跳ねさせたことだろう。
「あいつ何なの……?
あー、腹立つマジで。普通「反対されてる」とか本人の前で言う?はなびもあんな嬉しそうな顔してついてったけど、あいつ絶対性格悪いよ」
珠紀には言われたくねえだろうけど。
その意見には俺も賛成だから、おとなしく口を閉ざしていれば。珠紀に比べて随分と軽めのため息が、空気を揺らした。
「……やっぱり会わせるべきじゃなかったか」
「……"やっぱり"?」
「はなびは昔からマヤに懐いてたんだよ。
俺は意図的にはなびからあいつらの話を避けてた。……会わせねえようにしてたのに、いきなり来やがるから、」
聞くところによれば、あの男も朔摩の生徒らしい。
高1のときに昔引っ越した幼なじみとばったり同じ学校で遭遇して、お互いの環境を知って。
『花舞ゆ』と『BLACK ROOM』の間で大きな揉め事もなければ大した出来事が起こらなかったのもすべて、染が裏で話をしていたかららしい。
はなびが直接乗り込む前から、合併することはほとんど決まっていたようなもの。
「……まだ、
あいつにとってマヤは特別なんだろうな」
「………」
「……マヤなんだよ。はなびの、初恋の相手」
そうだろうな、ぐらいに思っていたから、余裕があるっていうのはちょっとした成長。
なのにその余裕を崩されるのは、一瞬で。
「あいつら、親同士が決めた許嫁だからな」
──どうしたって、現実はうまくいかない。



