動いたのは、はなびが先で。
抱きついたはなびは、ぽろぽろと涙を零す。呆気にとられている俺らの中で、抱きつかれている本人と、染だけが冷静だった。
「……こんな熱烈に迎えてくれるなら、
もっと前に会いに来た方が良かったかな」
「っ、遅い、わよ……っ。
わたし、ずっと、会いたかったのに、」
「うん、俺も会いたかったよ。
でもはなび、よく俺のことわかったね。もう10年近く会ってなかったのに」
交わされる会話の中に、親しさが混じる。
爪が食い込むほど無意識に手を握り込んでいたことに気づいたのは、芹が「椿」って声をかけてくれたからだった。
「わかる、わよ。
だってマヤは……ずっと、マヤだもの」
どうして、いつもそうなんだよ。
手に入れたと思えばたやすく、すり抜けていってしまう。気長に待つことを覚悟の上で付き合いたいと思ったのは俺の方だけど、それでも。……それ、でも。
「っ、」
突きつけられる現実が甘いと思ったことなんて一度もなかった。
はなびが付き合うと言ってくれたときだって都合の良い夢を見ている気分だったんだ。……それが本当に、束の間の夢だったのかもしれない。
俺のことなんて眼中になくて。
それが当たり前のはずだったのに、一度知ってしまったら、欲張りになって、止まらない。
「……染ちゃん。
状況がわかんないから、説明してほしいな」
穂がちらっと俺を見る。
その表情でさえ悲痛なんだから、俺はもっと悲痛な表情をしているんだろう。
「マヤは、」
「……ああ、ごめんね。
八王子 マヤだよ。俺の父親が御陵組の現トップの奥さんと親しかったみたいでね、今でも組の方とは仲良くさせてもらってて、姉さんともその関係での知り合いなんだよ。はなびとは、」



