静かな夜。

いつもと違うのは、わたしの生活スペースに椿がいるってことで。やわらかくて甘い彼の香りを、そっと嗅ぐように身を寄せた。



「……石鹸のいいにおいする」



「はなびからも同じ匂いしてるって。

ほらもう、俺が変なこと考えないうちにはやく寝ろよ」



……変なことって。

どうせ考えたところで何もしないでいてくれるのに。



「修学旅行、楽しかった……?」



「なんでその話?

楽しかったよ、普通に。……っていうかさ、はなび12月に海外行くんだろ?期末考査なかったっけ?」



「わたしのところは2年生にあわせて、期末考査が他校よりも1週間くらいはやいの。

みんなが期末考査受けてる時に、修学旅行」




それなら修学旅行をずらせばいいんじゃ、とは思わなくもないけど、白金はずっとこのスタイルらしい。

へえ、とつぶやいた椿。聞いた割に興味はなさそうで、じっと表情を見つめていたら、軽く身体を起こした椿の影が重なる。



「ん、」



「……抱きしめててやるから、はやく寝ろ」



甘く掠れた声と、意図的なのか時折変わる口調。

どちらにもきゅんとさせられて悔しいから、目を閉じて「おやすみなさい」を言う。



おやすみ、と返してくれた椿は約束通り抱きしめたままでいてくれて。

何を言うでもなく寄り添っていられる時間が、揺蕩うように不安定なのに、とても愛おしかった。



「……はなび」



ずっと目を閉じていたら、眠ったと思ったのかわたしの名前を静かに呼ぶ椿。

そしてその後耳元で囁かれた愛の言葉は。──申し訳ないけれど、わたしだけに独り占めさせてほしい。