水面が、夕陽のオレンジで染まる。

教えてもらった通りに沈みゆく太陽は確かに綺麗で、せっかくだからとスマホに収めてみたけれど、どう頑張ったって実物の方が美しく見えた。



「ねえ、椿」



「ん?」



「……最低だとは、思ってるんだけど。

椿と再会した時から、椿わたしに対してすごく優しかったでしょ。だから本命の子が羨ましいって思った。ノアもわたしには優しいけど」



波の音だけが、心地よく耳に届く。

椿は身勝手なわたしの言葉も、真っ直ぐに聞いてくれる。……この人と夕陽を見られることが嬉しいと思ってしまうくらいには、椿に揺らいでる。



「ノアに大事にされてる自覚はある。でも"大丈夫、ノアのこと分かってる"って思いながらも、家族を守らなきゃいけないノアに対してどこかで寂しくて。

その気持ちを見て見ぬフリをしていたところに、椿に好きだって言われて……」



染からも、好きだと言われた。

彼だって幼なじみだからどのくらいわたしのことを大切にしてくれるか分かっていたけど、それでも揺らがなかったのに。




「椿に、完全に拒絶された時。

本当にショックで、耐え切れなくてノアに泣きついちゃった」



そこまで含めて、自分のことを最低だと思う。

ノアと上手くいかなければ椿に。椿と上手くいかなければノアに。ふたりに甘えることで嫌なことから逃げて、守られようとした。



「……さすがにまだ、好きとは言えないけど。

2年一緒にいたノアと離れるより、椿に拒絶される方がわたしには辛かったから」



「……はなび」



「わたしと付き合ってくれますか?」



ノアの気持ちは疑ってない。

支えていけるのはわたしだけなんだって、そう信じてた。……でもふと現実を見たら、未来のない恋を続けてどうするの?って、怖くなってしまった。



……それさえもきっと、甘えてるんだろう。