"最後"。

それに込められた意味を気づかないほど、俺は子どもじゃなくて。──泣かずにまっすぐ立っているはなびを、ただただ強いと思う。



「『はなびを幸せにして欲しいって、お前に言われたからね。

……そのはなびに自分と別れて千秋とのいを幸せに欲しいって言われたんじゃ、俺が引きずるわけにはいかないでしょ』」



「………」



「ノアから、あなたへの伝言よ」



誕生日に、もしはなびが俺と会ってくれたら。

幸せにしてやって欲しいとお願いしたのは、俺。



「『それと。……はなびが泣いてた時。

俺の代わりに、慰めてくれてありがとう』」



息苦しさが、消える。

肩に無意識に入っていた力を抜けば、不意に吹いた潮の匂いをはらんだ風に、ああ夏だなとまた当たり前のこと思った。




「……ねえ、椿」



彼女の手が、そっと伸びてきて。

俺の手に触れたかと思うと、目線を合わせた彼女は優しく微笑む。そこでようやく彼女の頰に残る涙の痕に触れると、極彩色の髪が風で靡いた。



「あなたに今日、

告白の返事をしようと思って来たの」



触れ合う指から伝わる熱はもどかしくなるほどに淡い。

その微笑みが眩くて目を細める。目下に広がる海は、彼女が一度綺麗だと言っただけで俺が引きずったコバルトブルーとまでは、いかないけど。



「返事、聞いてくれる?」



「……、聞くよ。ちゃんと。

はなびの声で、ぜんぶ聞かせて」



すごく、綺麗だと思った。