ぽろ、と。

涙が一粒、彼女の頰を伝って落ちる。



「好きで想い合う気持ちは確かに強いけど。それでも、弱さを見せ合うことのできる関係には、どうしたって勝てない。

……わたし、ほんとはずっと知ってたの」



また一粒。さらに、一粒。

最初のそれがつくった痕をたどるようにして、透明な涙が何度も頰を伝い落ちていく。



「千秋さんが、ノアのこと好きになってて……

ノアがわたしに悪いって思いながらも、千秋さんのその気持ちを拒みきれないこと、ずっと知ってた」



手を伸ばして、拭ってやりたいけど。

そうすることをためらうくらいに、はなびは綺麗な表情で泣く。



いつかあの人のことを想って泣いていた時のように感情がわからなくなるぐらいぐちゃぐちゃになってくれたら、俺だってためらわずに抱きしめてやれるのに。

泣かせないからおいでって、言ってやれるのに。



ここまで堪えても、やっぱりはなびはあの人中心で回ってて。

それ以外を受け入れることなんて、知らない。




「あの日、椿の言葉で『花舞ゆ』から離れることになってなかったら。

……数日後に、千秋さんとノアと話すつもりだった。やっぱり、千秋さんとのいちゃんを優先して欲しいって」



「……うん」



「だけどああいう状況になって、泣いて、結局甘えて一緒に暮らすようになったけど。

この間あなたがわたしの誕生日を1日欲しいって言ってくれて、わたしもやっと踏み出す勇気を持てたから。昨日、ようやく3人で話したの」



自分の指で、涙を拭うはなび。

さっきまで泣いていたのに、それが嘘みたいに俺をしっかりと見据えて。



「やっぱり、のいちゃんには父親が必要で。

千秋さんには支えてくれる人がいる。……3人で話し合って、決めたわ。ノアにはこれから先も、大事な家族を守ってもらうから」



「………」



「今日。

『最後ぐらい一番に祝わせて』って言ったノアに見送られて、あなたとの約束のために出てきた」