「ほら、椿もはやく来て」



振り返って俺を呼ぶはなびの笑顔の無邪気なこと。

思わず笑ってしまって「はいはい」と返事しながら、俺もサンダルを脱いではなびの元に歩み寄る。



そんなイメージはなかったけど、はなびは案外海とか好きなのかもしれない。

裸足で踏みしめる砂の感触に、懐かしいなと思った。



去年は男ばっかで海なんて行ってないし、中3の時は染の志望校が進学校だったから、遠慮して遊びに行かなかったし。

中2の時に、はなびも合わせて一緒に行ったのが最後か。



「……全員で一緒に行く時はそんなにはしゃいでなかったのに」



「ふふ、綺麗な海見たら楽しくなっちゃって。

ちょっと海に足つけるのもだめかな?」



「ここは膝下までなら入ってもいいらしいけど」




ほら、と。

指差したのは、人気のない砂浜にぽつんと立てられた看板。赤色で遊泳禁止の文字と、その下に今告げたことが書いてある。



「ちょっとだけ入ってきてもいい?」



この服なら濡れないし、と。

告げるはなびは袖がレースの白シャツに黒のショートパンツ。……惜しみなく美脚を晒してるけど、よくあの人に止められなかったな。



「いいよ、待ってる。

バッグ持っててやるから貸して」



ロングのジーンズに乾いた砂が触れるのはいいけど、さすがに俺はこのまま入れないし。

臙脂色のショルダーバッグを俺に申し訳なさそうに渡した彼女が海に足を入れる。波が来るギリギリのところまで歩み寄れば、満面の笑み。



「……冷たい?」



「んー、いま暑いからすごく冷たいってわけでもない。

でも、ちょっと冷たくて気持ちいい」