恥ずかしいから本人には内緒だけど、実ははなびの好きなところならたくさん言える。

何気ない表情も嬉しそうな顔も、先輩の話をした時に見せる女の子の顔も、何なら俺の名前を呼ぶ時の普通の顔も。



泣くのをこらえてる時も、泣いてる時も。

全部が可愛いし、これは表情のほんの一例だ。



実際はそこに毎回違う言動が加わってくるのだから、はなびを可愛いと思わないタイミングがどこにもない。

常にはなびは可愛くて、愛おしくて──。



「……ねえ椿」



「ん〜? どした?」



「……椿が大人の階段のぼったって、

クラスの男子達が散々ネタにしてたんだけど、」



「っ、げほ、」




噎せた。

何かを口にしていたわけじゃねえけどゴホゴホと噎せている時に限って誰かがタバコなんか吸ってやがるから、余計に息苦しくて困る。



背中をさすってくれた彼女を、涙目で見つめた。



「な、んでそんな話、」



「いや……ほんとなのかと思って」



「はなびは……

その噂聞いて、どっちだと思った?」



綺麗な黒髪に、手を伸ばして触れる。

つーか誰だよまじで言いふらしてんの。女の子からすれば、最初っていうのは大事な経験で、いつか好きな男と……ってなるのかもしんねえけど。



男からすれば、どっちかというとお荷物。

はやく捨ててしまいたいっていう気持ちの方が強いと思う。……いや、そう肯定すんのもおかしいんだけど、俺は少なからずそっち側だった。