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「……お前本気?」
ノア先輩とはなびが去って、完全に姿が見えなくなってから。
ようやく、ふっと詰めた息を吐き出しながらそう言ったのは珠紀で。
「……本気だよ」
ばかなことを言った自覚はある。
それこそ、後戻りできないほど馬鹿げた話だ。
『はなびが誕生日を誰と過ごすか……
当日まで、返事は聞くつもり、ないので』
『はなびのマンションに、午前10時に迎えに行きます。
一度だけインターフォンを鳴らして出てこなかったら、潔くあきらめて帰ります。だけどはなびが出てくれたら、1日俺にください』
ごめんな。未練がましくて。
素直に「ごめん」と謝っただけでは、はなびが許してくれたとしてもあの人が許してくれないだろうから。だから、こうするしかなかった。
『……もし、はなびが出なかったとして。
あきらめて帰るっていうのは、この先二度とはなびと関わらないって約束だと思っていい?』
『そのつもりです』
『逆にはなびが、そのデートを呑んだ時は。
……俺に何を望んでるの、椿』
俺がはなびのために、ノア先輩に望むこと。
それははじめからたったひとつだけで。たとえはなびが当日どちらを選んだとしても、俺にとっては「はなびをあきらめる」ための手段だった。
『……幸せにしてください、はなびのこと』
『、』
『ノア先輩の知らないところで、
はなびがもう二度と泣いたりしないように』



