は、と。

こぼした声は、自分でも驚くほどに怒気をはらんでいて。電話の向こうの彼は、そんな俺に気づいても尚、くすりと余裕げに笑うだけ。



『俺、はなびのこと渡す気ないよ?』



「、」



『むしろ椿からはなびを遠ざけてくれて、ラッキーって思ってるぐらいだし。

さっさと彼女つくって、俺のかわいいおひめさまのことなんて何もなかったみたいに忘れなよ』



違う。余裕なんじゃない。

……怒ってる。俺がはなびを、泣かせたこと。



『それとも、嫌ってぐらいに見せつけた方がいい?

はなびが何をされたらどう反応するのか……全部、目の前で見せつけてあげようか?』



挑発とも取れるそれ。

くっと顔を顰めた俺を見透かしたように『ねえ、椿』と追い討ちをかけた声は、嘲笑われているような気がしてひどく気分が悪かった。




『何を考えてるのかは知らないけど。

……はなびは、俺のだよ?』



「……わかってます」



『なら、わかるよね?

人のもんに、手ぇ出すなって言ってることぐらい』



はっきりとした忠告。

彼は間違ったことは、何一つ言ってない。それをわかっているから素直に「はい」と返事すれば、『それでよし』とその口調さえ俺を揶揄うように。



『会いたいなら会ってもいいよ。

ただしはなびは会いたくないって言ってるから。……次泣かせたら、会うの禁止ね』



連絡も出てくれない。会うのも嫌がってる。

だけど会わなきゃどうしようも、ないけど。



この日から何度白金に出向いてみても。

はなびのマンションに、訪れてみても。──彼女に会えることは、一度もなかった。