語彙力もレパートリもクソもないな。

面倒でその言葉ひとつを使って腕を掴んできた芹の手を払うと、「俺帰るから」とソファを立つ。



一見静かだけど、染も珠紀も穂もいる。

今日は芹がストレス発散にカラオケ行こうぜって言ってた日だけど、そんなの今は心底どうでもいい。



俺の様子が変だと気にしている両親に詮索されるのが嫌でここに来たけど、ここはここで芹が構ってきてうるさい。

引き止められることもなくガレージを出て、適当に女の子と遊ぼうかと思ったけど、そんな気分じゃないし。



「、」



適当に歩いて着いた先がはなびのマンションの近くだったことに気づいて、息が詰まった。

……ただただ、ショックだったんだと思う。



勝手に期待したのは俺で。

結局はなびの彼氏はあの人だってことを嫌ほど知ってたのに。ちょっと、うぬぼれてたから。



いまあいつの一番近くにいるのは、俺なんだって。

あの人のことを想って泣くはなびのことを慰めた時に、勝手に俺がそう自惚れただけ。




ショックと嫉妬と。

ごちゃごちゃしたものが混ざり合って、シイの胸ぐらを掴んで事を大きくしてしまったのは認める。



単位危ういんだっけと仕方なく学校に行けばシイも来てたけど、俺らの間にここ数日会話は一切なかった。

どういうわけか、珠紀や染は『BLACK ROOM』に関わる話をしてたけど。



はなびを引き抜くと言われて腹が立ってから、その話題は避けて聞かないようにしてたから。

何が真実だとか、どうでもいい。



はなびがあっさりまた『花舞ゆ』を去ったんだから、シイの方に行ったのかもしれない。

……そんな話を直接聞く気にはなんねえけど。



「ばか、だろ……」



気づけばはなびのマンションの下。

押せもしないのに、頭にあるのは彼女の部屋番号。……自分勝手だけど、たまらなく会いたくて。



彼女をまた泣かせてから、眠るたびにはなびの夢を見る。