「……、わたしも行くわ。

でも授業中に抜けてきて、いまスマホしか持ってないのよ。定期は教室にあるから、」



『いますぐ出てこれそうなら、駅で待っててやるけど、』



朔摩と白金は、最寄駅が同じだ。

そのふたつ手前、ここよりも地元寄りにあるのが天皇寺。そして地元から自転車や徒歩で通える距離にあるのが氷見が丘。



染の口ぶりからして、まだ彼は朔摩の最寄駅にいるらしい。

それなら、と。待ってて欲しいとお願いして、こっそり学校を抜け出す。



染と電話を終えて、連絡先の中から『藪雨 紫』の名前を選ぶ。

自然と駆け足になりながらコールすれば、『どうしたの?お姫様』と楽しげな声。



「どうしたの、じゃないでしょう……っ。

あなた一体、椿になに言ったの」



椿は優しい人だ。

衝動的に動くことも多いけれど、絶対にすぐに手を出したりはしない。その彼と喧嘩になるのだから、この男が何かしたに決まってる。




『別に何も言ってないよ。

ああでも、昨日お姫様と一緒にいたって言ったら、怒らせちゃったみたいだけどね』



「、」



『そりゃあ椿も怒るでしょ。

自分の好きな子がデートしてくれて。家まで送り届けた後に、夜遅くまで別の男といたら』



それを、わかってるなら。

どうして言ったの、と文句を言ったところで、「楽しいから」と言われるだけ。面白いことにだけ、積極的に動くような男。



『ああ、「好きな子」って言ったのにそういう反応ってことは。

……椿に告白でもされた? そりゃ怒るよね』



「紫、」



『あ、やっと俺の名前呼んでくれた』