ポケットに入れたスマホが、さっきからずっと鳴り続けている。

間違いなく着信だということはわかるのだけれど、先生の視線から逃れるように画面を確認してみれば相手は『道越 染』。



おかしいな。

……朔摩もこの時間は授業中のはずだけど。



この授業が終わるまでは、あと20分。

切れたと思えばまたかかってくるところを見ると、どうやら相当急ぎの連絡らしい。



程よくざわつく教室の中で、「先生」と声をかける。

一瞬教室がシンと静かになって、教室中の視線がわたしに向いた。



「ちょっと体調が良くないので、

保健室……行ってきても良いですか?」



普段、まじめに生活しておいてよかったと思う。

心配そうな顔をした先生からあっさり許可が出て、筆記用具をまとめて机の端に寄せると教室を出た。



足早に廊下の奥まで進んで、また鳴ったスマホを耳に当てる。

そうすれば『はなび』とわたしを呼んだ彼のうしろは、どういうわけかざわついていた。




「なに、どうしたの? いま授業中でしょう?」



『椿が問題起こしたらしい』



「……は、い?」



『俺も詳しいことはわかってねえけど、仲の良いダチと喧嘩になったらしい。

天皇寺のヤツから連絡来て聞いた話だと、教師挟んで話すぐらいの大事(おおごと)になったんだと』



仲の良いダチ、と言われて思い出すのは、紫色の髪をしたあの男。

どうもその内容に心当たりがあるから息を詰めて、「どうなったの?」と状況だけを尋ねる。



『停学になるほどではないらしい。いまはほかの天皇寺のヤツらと一緒にたまり場まで行ってるみたいだな。

どうも『花舞ゆ』のことも関係してるみてえだから、放っておけねえだろ。俺も休み時間の間に学校抜けてきた』



……学校抜けてきたって。

平然としてるけど大丈夫なのそれ。しかも、聞けば氷見が丘の3人もたまり場に向かっているらしいし。