そうだ「桃」だったわ、と。

双子の姉らしい彼女の言葉で名前を思い出し、ああそうだ、ともうひとつ大事なことを思い出した。背筋を伸ばして、「桃ちゃん」と名前を呼ぶ。



「はなびに俺の連絡先、

ちゃんと渡してくれてありがと」



「あっ、ううん!

昨日学校でね、『花舞ゆ』のみんなに会えたって嬉しそうに報告してくれてて、」



……嬉しそうだった、のか。

本当に喜んでくれてたならよかった。もどりたいみたいだったし、実際会った時は笑顔だったけど、そうやって聞くと俺も嬉しい。



「はなびも今日一緒に来れたらよかったのにー。

彼氏に会いに行ってくる!って帰っちゃったんだよねー」



……ん?

彼氏に会いに行ってくる? え……?



いまはなびと一緒にいるのは俺なんだけど?




「はなびが自分から彼氏さんの話することなんてまずないから、嬉しそうなのも珍しいし引き止められなくて。

あ、待って、椿くんもしかしてデート中?」



「あー……うん、そんな感じ」



「そっか、ごめんごめん!

じゃあお邪魔にならないうちにもどるね」



ひらひらと手を振ったツインテールの彼女と、軽く会釈して去っていく黒髪美人。

どうやら通されていた席はすこし離れたところだったようで、ふたりが座ればこちら側から姿は見えなくなった、けど。



「っ、まじで何なの、はなび」



聞かされた言葉を思い出して、思わず顔が熱を持った。

俺と会うのに彼氏って言って、しかも普段は自分からそんな話持ち出さなくて、さらにさらに嬉しそうだった、って。



俺のこと浮かれさせて、どうしたいんだよ。