そう釘をさせば、彼は一瞬きょとんとしてから、笑って。

「俺結婚してんだよ」と、左手にあるリングを嫌味にならない程度に俺に見せた。それを見て、大丈夫そうだなとはなびを見送る。



ああいう大人の対応ができる人は、俺みたいに衝動的に動いたりしない。

見送ったのはいいけど、その話ってどれぐらいの時間がかかるんだろうか、と。氷が溶けて薄く水の膜が張ったアイスティーを眺める。



ストローをまわして均一にしてからそれに口をつけて、特にやることもないからスマホを取り出した。

俺と染と、珠紀と芹と穂。5人のトークグループに、『椿』と俺を呼ぶ声があって。



目を通していれば、今日は珠紀も彼女とデートでたまり場にいないらしい。

穂とふたりでつまらないと芹が発言していたけど、染も珠紀もスマホを見ていないのか返事はなし。



可哀想だから「俺いまはなびといるよ」って送れば、「は!?裏切り者!」とすぐさま返信があった。

……これは、相当暇してんな。



「裏切るも何も……

誘われたのは俺の方なんだけど、ねえ」



染には申し訳ないけど、断ってくれてよかった。

おかげで俺はデートできてるし、勢いのままに、ではねえけど、告白もしたし。




何気に略奪宣言までしちゃったしなぁ、と。

もう一口アイスティーを飲んでいたら、「あれ!」と駆け寄ってくるのは、今さっき店に入ってきた女の子。



「椿くん?」



「……あ、」



誰もが振り向くくらい、ド派手なピンクのツインテール。

後ろにいるのは清楚な黒髪の女の子で、顔立ちがよく似てる。……姉妹か、双子、か?



「やっぱり椿くんだ〜!

髪染めたんだね! 似合ってるよー」



「桃、急に引っ張らないで。

あと、すごく困ってるみたいだけど」



「あ、ごめんね?

こっちはわたしの双子のおねーちゃんで杏子っていうんだけどー、」