ふあっとあくびしながら言う彼。まるで他人事だ。……いや、実際他人事なんだろうけど。

本気で大変だと思っているのなら、すこしは遠慮してくれたらいいのに。



彼が泊まりに来た次の日、わたしが授業中どれだけ睡魔と戦っているのか。

……たまに寝ちゃってるせいで成績が悪くなったら、彼に文句を言ってやろうと思う。



「ノアだって、去年まで高校生やってたでしょ」



気をとりなおして、ニーハイを履きながら。

言えば、「俺遅刻魔だったし」とけらけら笑う。たとえ遅刻魔でも名の知れた一流大学に合格できちゃうんだから、この人は頭が良い。



「……はなび」



「なに?」



ぎゅう、と力の強まる腕。

アイロンのあてられた綺麗なシャツにシワができて眉間が寄るけれど、彼はそんなことお構いなしで。




「いや……なんでもない」



そう言ってわたしから離れると、シャワー借りる、と先に部屋を出て行った。

……何がしたかったんだ、いったい。



気にはなったけれどわたしより大人なノアの行動をいちいち考えていたら、本当にきりがなくなってしまう。

早々に考えるのをやめてカーディガンを羽織り、ポケットにスマホを入れたブレザーを持って、リビングに向かった。



ブレザーを椅子の背もたれにかけて、今度は洗面所に立ち寄る。

ノアがお風呂を使っているけれど洗面所に立ち入ることなんてよくあるし、逆にわたしがお風呂に入っているときに彼が洗面所にいることもよくある。



そういうところに気を遣わずに済むのは、

付き合ってから長い証拠なのかもしれない。



「……昨日買ったクロワッサンと、」



歯を磨いて顔を洗えば、すこしだけ頭の中がすっきりした。

朝食のメニューを考えながらもどったリビングがひどく静かで、それが落ち着かなくて意味もなくテレビをつけた。