ただ向こうに彼氏ができただけで、断じて俺がフラれたわけじゃない。

冗談で言ってるのはわかってるけど誤解されても困ると散々否定した挙句。



「だから、結局好きなんでしょ?」



「……うるっさい」



行き着くのはここで、これももはやお決まりの茶番だ。

俺がなんて言おうが何を隠そうが、"椿の好きな人=はなび"という関係式がこいつらの中で覆ることはない。……まあ、好きなのは事実ですけど?



「っていうか俺より染の方がすきじゃん」



「……最終的には認めるんだな」



ずっと我関せずで書店のブックカバーが掛かった文庫本を読んでいた染が、ようやく顔を上げたかと思えば、ふっと笑ってそう言う。

認めた、というのははなびが好き、という件についてだろうけど、ひとまずそれは置いといて。




「俺はそんなに大したことないぞ」



「いつから好きなんだっけ」



「4とか5……? じゃないか?」



思いっきり桁違うじゃねえか……!と、思わず心の中で盛大にツッコんだ。

4年とか5年、なら同じだっただろうけど、染の言う「4とか5」は残念ながら4歳とか5歳という意だ。敵うわけない。



……幼なじみってずるい。

ただでさえはなびの彼氏、という存在に勝てないのに。染がはなびを好きでいる限り、俺は片想い歴でさえ勝てなくて。



しかもその張本人は"ノア先輩"への、嫉妬の切片すら見せないし。

……たぶん、本当に嫉妬とかしてないんだと思う。



染の考え方は人とちょっと変わってて、好きだから俺のものにしたい、とは思ってない。

好きだから幸せになる相手と付き合ってほしい、って本気で思ってて、はなびが幸せならそれで良いと思ってる。……俺には、絶対むりだ。