「何もしないから、泣き止んで、はなび。

……俺、はなびに泣かれたら、本気でどうしていいかわかんなくなるから」



「っ、ご、めんなさい」



「いや、悪いのは俺なんだけど……」



椿の優しい言葉が余計に涙を誘ってること、言ったら彼が困りそうだから言わないけど。

背中をさすってもらいながら深呼吸して、落ち着く。視線を合わせたら本気で安堵したように息をついた椿が、頰に残った涙の痕を拭ってくれた。



「椿がそんな顔するの、めずらしい……」



「俺だってはなびに泣かれたら慌てるから。

……ごめんな。俺のこと、怖かった?」



さっきまでの余裕はどこへやら、まるで子犬みたいに不安げにわたしを見る椿。

あまりにも不安そうだから、いつもの自信はどこへいったのかと笑ってしまいそうになった。




「怖かった」



「っ、ごめ、」



「間違った答えを選んで、また椿のこと傷つけたらどうしようって、怖かった」



見慣れないコバルトブルーの瞳。

椿らしくないそれが嫌だ。似合うけど、いまは彼のそのままの瞳が見たい。わたしの前では、いつも通りの、飾らない椿でいてほしい。



「はなび……、"また"って、」



「2年前、わたしが『花舞ゆ』のみんなに別れを告げた時……

椿が、誰よりも傷ついた顔してたじゃない」



だからもう傷つけたくない、って。

そう告げれば彼は困ったように目尻を下げて、「ばかだな」とらしくない暴言を吐く。