「ノアってたまに残念よね、はなびちゃん」
「失礼だよ千秋」
「本当に残念」
わざとらしく強調する千秋さん。
彼女が面白がっていることに気づいて「そうですね」と賛同すれば、ノアに「こら」と軽く小突かれた。でもまったく痛くない。
「そういえば、デートしてたんでしょう?
ここに来たって、いつもと変わらないけどいいの?」
「はなびが、のいに会いたかったんだって」
「ふふ、もう。
はなびちゃん、今日じゃなくてもいつでも来れるのに」
わたしの好きな紅茶が、当たり前のようにこの家には置いてあって。わたしが来たときはいつもそれを千秋さんが出してくれて。
好きなときに、いつでも泊まれるようにって、わたしの着替えや生活用品まで、揃ってる。
「……やっぱりはなび、こっちおいでよ」
「、」
「千秋とのいのことも、大事だけどさ。
俺にとって特別なのははなびだから、俺のそばにいてよ。はなびのこと、ひとりにしたくない」
「ノア、」
「……ああ、ごめん、やっぱ訂正する。
今の俺じゃまだはなびを養えないから、結婚って形にはできないけど。せめてここで、そばにいて」
ノアがくれるものは、いつだって「未来」の約束だった。
わたしがあきらめてきたものを。今もまだ、夢を見られないものを。紛れもなく、ノアはわたしに差し出そうとしてくれていた。



