……うん、だいじょうぶ。
千秋さんとのいちゃんの前では、ノアは"こう"あるべきだ。わたしと過ごす時には無いはずのそれがこの家にいるときにはあるのも、見慣れたものだから。
「そりゃあ、はなびものいも俺の宝物だからね」
「うん、そうね」
泣きそうになんか、なったりしない。
未来なんて求めてない。期待しちゃだめだ。
わたしがのいちゃんに絵本を読んであげている間に、千秋さんとノアは楽しそうに会話してる。
千秋さんの方が年上なのに、それを感じさせないのはノアがやっぱり大人っぽいからで。
「わんわんっ」
視線をのいちゃんに向ければ、絵本の中のかわいい犬のイラストを指差して、ご機嫌な彼女。
「そうね」と見つめた瞳は、遺伝なのか不思議な色合いをしてる。宝石みたいに綺麗だ。
「わぁっ……」
どうやらこの絵本は昨日新しく買ったばかりで、読むのははじめてだったらしい。
全て読み終えると、のいちゃんは手をぱちぱちと叩いて喜んでくれた。
それがあまりにも可愛くてぎゅうっと抱きしめるわたしに、「はなちゃんすきー」なんて言ってくれるから、しあわせすぎる。
わたしに年の離れた妹がいたら、こんな風に溺愛してたかもしれない。
「どうしよう千秋、目の保養すぎる光景」
「真顔で写真撮ってるの怖いわよノア。
はなびちゃん、のいのわがままに付き合ってくれてありがとう。紅茶淹れたから、こっちでお茶にしましょう?」
「のいもこっちおいで。
ちょっとおやつには早いけど、ドーナツ出したって」
スマホを片付けたノアに手招きされて、ふたりで食卓へと近寄る。
ノアの隣にお邪魔すれば、なぜか「はなびは本当にかわいいね」と口説かれた。意味がわからないせいで、反応に困る。



