「ほかのメンバーにはわたしが帰ってきてることも、わたしとまた会ったことも絶対に秘密にして。

連絡先も誰にも教えない。その条件を呑んでくれるなら、その約束ぐらい交わしてあげるわ」



「言ったな? それくらいなら呑んでやるよ」



「……なら交渉成立ね」



彼の前に、右手の小指を差し出す。

そうすれば一瞬だけちらりとわたしを見た椿は、素直に小指を絡めた。何か言うでもなく、絡めて、ただそれだけの指切り。



「俺がしぶといの知ってるだろ?」



「椿こそ、わたしの勝負強さは知ってるでしょう?」



どちらが勝つか、の勝負じゃない。

どちらが負けるか、の勝負だ。……無論、椿が負けるに決まっているのだけれど。




「……ちなみに、期間はいつまでなの」



「高3の終わり。

一応『花舞ゆ』はそこで引退だからな」



ということはつまり、あと1年半の保証は約束されたわけだ。

その先どうするべきなのかはノアに聞かなきゃわからないけど、その前に彼と、"彼女"とも、いろいろ話し合わなきゃいけない。──この恋に不必要な、未来の話を。



「とりあえず、今週末俺とデートな」



「は……?」



「良いんだろ?

それ以外の条件を呑むなら、なんでも」



試すように、誘うように、彼が口角を上げる。

挑発ともとれるそれへの返事なんて、わたしにははじめから、ひとつだけだ。