「ねえ、ノア。

毎回言ってるけど、わたしも自分のデート代ぐらい出せるから。っていうか電車代くらいは出させてくれないと困る」



「そういうとこ可愛くないよねはなびは。

……いいから、素直に甘えて。はなびを笑顔にするためなら、デート代ぐらい気にしないよ」



「わたしが気にするのに……」



……ああ、そういえば。

椿もおんなじような理論で、わたしにランチを奢ってくれたけど。男の人の考え方って、みんなそういう感じなんだろうか。



「納得いかないなら、

いつもより俺の前で笑顔でいてよ」



「……、わかったわよ」



ふいっと顔をそむけるわたしに、ふふっと楽しげなノア。

一生勝てる気がしないと思いつつも、ゆるく絡む指先に頰が緩みそうで困る。……どうしよう。今日もノアのこと、すごく好きだ。




会ってまだ数分なのに、もう愛おしくてたまらない。

絶えることなく女性の視線を集めるこの彼を、独り占め、したい。



「……そんな顔しないでよはなび。

人前なのに、このままだとキスしそう」



「……、ばか」



わたしもしたい、と伝える勇気はない。

照れを拗ねた言葉で隠して、指を密に絡ませるので精一杯。どうせノアは、そんなわたしに気づいてるんだろうけど。



「おいで、はなび」



乗り込んだ電車はここから都会へと向かう。土曜の今日は特に人が多くて、この時間なのに満員電車。

わたしの耳元でそう囁くと彼に抱き寄せられて、満員電車だから仕方ないと心の中で言い訳しながら胸に顔をうずめた。



ちょっと甘くて、でも大人で、刺激的。

すべてを併せ持ったノアにぴったりの香水が、煙るように香る。出会ったときからずっと、ノアはわたしよりも随分と大人だ。