何を望んでたのって、そんなの、聞かれたってわからないけれど。

ただ一言、自分勝手でわたしに都合の良いように物事が進めば良いのに、って。そんな浅ましいことを考えたのは、事実だった。



「お待たせ。遅くなってごめんね」



「ううん、全然。まだ時間より早いよ。

そのワンピース新しく買ったの?かわいいね」



──土曜日。午前10時、駅前。

周囲の女性の視線を独り占めしていた彼に、深呼吸してから駆け寄る。そうすればふわりと微笑んで、会うなりわたしのコーディネートを褒めてくれた。



「ありがと」



「でも、惜しいな。

会うなり抱きついてきてくれるのを期待してたのに」



「……そんなことしません」




敬語で拒んだわたしに、くすくすと楽しげに笑うノア。

それから自然な動きで指を絡ませてくれて、「行こう」と手を引く。椿とはまたちがう、慣れたエスコート。



だけどそれに、何の嫌味もない。

もちろん椿のエスコートに嫌味があるわけじゃなくて、なんというか、慣れてる気がするのに、それを匂わせないから。



「ちょっと待って、ノア。

わたし定期にお金のチャージしなきゃ、」



「ああ、いいよ。はいこれ」



「え、」



改札の前で差し出されたのは切符で、驚く間もなく「後ろ詰まるよ」という声に促され、渡された切符で改札を抜ける。

ホームを進んで邪魔にならないところまで行ってから彼を振り返り、「ノア」と呼んだ。



それだけでわたしの言いたいことを汲んだらしい彼は、「今日は財布出させないからね」と一言。

……だめだ。この人、わたしを甘やかしすぎてる。