失敗した、って思った。

なんで聞いたんだろう、って思った。



「そんな風にまっすぐ愛してもらえたら、誰だって嬉しいでしょう?

……って言っても、あの頃わたしはノアのことしか見てなかったから、結局どうなってたのかはわからないんだけど」



俺が予想してた返事は、椿はそういうタイプじゃないでしょ、とか。

わたしのこと好きになるなんてありえないでしょ、とか。



そんな、いかにもはなびが言いそうなセリフばかりだったのに。

どうして。……このタイミングで、そうやって、曖昧な期待を持たせるんだろう。



もしかしたら、付き合ってたかもしれない。

俺があの時素直に、言っていたら。はなびのそばにいるのは、あの人じゃなかったかもしれない。



「はなび、」



──俺、だったかもしれない。




名前を呼べば、返事してくれる。

当たり前のことだけど、それがたまらなく恋しい。触れられるこの距離感が、もどかしくて。結局最後まで踊らされるのは、俺の方。



「……ごめん、気が変わった」



「え、」



はなびの手から保冷剤を奪うと、それをテーブルの上に落として、彼女の指を絡め取る。

ひんやりと冷えた指が俺の指と絡んだことで淡く熱を孕んで、はなびが困ったように俺を見つめた。……その表情も、ぜんぶ、欲しい。



「嫌なら、ちゃんと抵抗して。

……じゃないと俺、はなびのこと好きなようにするから」



「っ、」



……やっと、俺のこと意識した。

赤く色づいた頰と、戸惑うように揺れる瞳。視線の間で、熱と糖度が上がる。ごめんな、はなび。俺は、はなびが思ってるよりずっと、優しくねえよ。