ぴたり。
ペットボトルに伸ばそうとした手が、止まる。
「二股……?」
「そう」
……二股って。
そんなわけねえだろ、って思うのに。あの人は俺らに「ごめん」って謝るぐらい、はなびを溺愛してるはずなのに。──ほんの、一瞬。
「……まさか。絶対お前の勘違いだよ」
「そうだといいけどね」
ああそうだったらいいのに、って。
そんなことを考えた自分に、嫌気がさす。本当にあの人が浮気してんなら、はなびのこと奪ってやれんのにって。どうせ結局、何も出来やしないのに。
「……俺疲れたからもう寝る」
「いいの? 妹ともう1回電話しなくて」
「俺にあわせて早起きしたから、
すみれももう疲れて寝てんだってさ」
「そ。……おやすみ」
「おやすみ」
シイはまだ寝ないらしいから、電気はついたままだけど。
疲れていることもあって、自然と眠りの中へと落ちていく。──そして深い眠りに落ちる、その寸前。
シイが、なぜか笑ったような気がしたけど。
その意味を、俺が知ることはなかった。



