「……おまえさ、」



「うん?」



「最近、綺麗になったな」



彼女の黒髪を、そっと指で梳く。

耳にかけてやれば彼女は「ほんとに?」と俺を見て。それから嬉しそうに、白い肌をうっすら薄桃色に染めた。



「……好きな男でもできた?」



色づいた頬を指でなでれば、じんわりと燻るような熱が指先に触れる。

「え、」と声を漏らしたはなびは、じいっと俺を見据えてから。照れたように笑って、こくんと、うなずいた。



……正直に、言おう。

俺がはなびを好きだと気づいたタイミングは、ここだった。まっすぐに俺だけに向けられた言葉に、強く揺らされて。




「……まじ?」



「まじ……です。

あ、でも恥ずかしいから、まだみんなには内緒にしてね」



本気のその表情に、惚れ込んだ。

恋してる女の子って、本気でかわいいんだって思った。だって今まで、はなびのそんな顔、一度も見たことなかったから。



赤く染まる頰も、ちょっと恥ずかしそうなその感じも。

全部全部ほかの男に向けられるもんなんだって思ったらその瞬間に、一気に燃え上がった。つまり俺の惚れたタイミングと失恋のタイミングは、情けないことに同じ時。



「……協力、してくれる?」



「……いいよ」



はなびに嘘をついたのは、この時がはじめてだ。

……なあ、はなび。俺が完全に気を許してるせいで無意識に"お前"って呼んじゃう女の子、未だにお前だけだって、知ってた?